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東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)103号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本件実用新案の要旨は、右「登録請求の範囲」の記載(原告の請求原因二参照―編注 本件実用新案の説明書の「登録請求の範囲」には、「自由端の端縁に沿い縦通案内溝2を設け且つ潜り戸4を設けた開き扉1を建物の開放口Aの側方部分を開閉するように其の開放口Aの側縁に沿う軸線を有する枢軸5によつて枢着し前記開放口Aの側縁から内方(又は外方)へ偏倚した位置に捲込扉3を設けて其の捲込扉3の側縁を閉鎖位置に於ける前記開き扉1の縦通案内溝2によつて案内するようにした捲込扉装置の構造。」と記載されている。)のとおりの「捲込扉装置の構造」にあつて、その作用効果は、(イ)建物の開放口Aの側縁から内方または外方へ偏倚した位置に捲込扉3を設けたから(すなわち開放口の側縁上でないところに捲込扉を設けたから)、閉鎖時に開放口Aをほぼ中心とするスペースを外側または内側に広くとることができ、(ロ)開き扉1を右開放口Aの側縁に沿う軸線を有する枢軸5によつて枢着し、開放口Aの側方部分を開閉するようにし、その開き扉1の自由端に縦通案内溝2を設けたので、開き扉1を閉鎖位置に回動して捲込扉3を上から縦通案内溝2によつて案内させながらおろして閉鎖し、またその反対の操作によつて開放できるので、開放時に建物の開放口に扉の案内支柱等が存在しないから開放口をそのまま有効に使用でき、(ハ)開き扉1に潜り戸4を設けたから、捲込扉の一部を切り欠いで潜り戸を設ける場合よりも構造を簡単にし、製造を容易にすることができる、というものであることがそれぞれ認められる(なお潜り戸4の作用効果が、閉鎖時における出入を可能ならしめるにあることは明白である。)。

(二) 原告は、……本件実用新案の要旨が、「開き扉1を建物の開放口Aの側方部分を開閉するように開放口の側縁に沿う軸線を有する枢軸により枢着した捲込扉装置において、開き扉1を内または外に偏つた斜めの位置で閉止するようにし、開き扉にその斜め閉鎖位置で相対向する縦通案内溝2を形成した捲込扉装置」にあるとなすべき旨主張するので、以下その当否について検討する。

1 その(1)ないし(4)の主張について

(イ) 当裁判所がそれぞれ原告が公知のものと主張するに示すものは、その開き扉は幅が狭く、本件実用新案におけるように潜り戸を備えておらず、また本件実用新案と異なり閉鎖時にはシャッターと右の扉とは直線状に連なつて一平面を形成するようにしたものであることが明らであり、そして右の構造からすれば、この装置には、本件実用新案が有する閉鎖時において開放口附近のスペースを内側または外側に広くとり、かつ潜り戸による出入を可能にするという作用効果はないことが明らかである。これによつてみれば、本件実用新案における開き扉1およびこれと関連した捲込扉3の構成は、すでにこれらの諸点において前記写真に示すものとは著しく相違するというべきである。

すなわち右写真によつては、本件実用新案の出願時において、本件実用新案におけるような開き扉を設け、その自由端に設けた案内溝によつて本件実用新案におけるような位置に設けた捲込扉の側縁を案内させるようにした捲込扉装置の構造が公知であつたとすることはできないのであるから、出願時におけるこの趣旨の構造の公知を主張し、これに基づいて、本件実用新案における新規な考案の趣旨が、「開き扉1を内または外に偏つた斜め位置で閉止するようにし、開き扉にその斜め閉鎖位置で相対向する縦通案内溝2を形成した」点にあつて、ここに本件実用新案の要部が認めらるべきであるとする趣旨の原告の主張は、前提を欠き失当というべきである。

(ロ) 原告はまた、本件実用新案の要旨は、説明書の「実用新案の性質、作用及効果の要領」の項における指摘の作用効果に関する記載および図面の記載からみても、前記のように認められるべきであるという。

ところで登録実用新案の要旨の認定(ないしその「登録請求の範囲」の解釈)にあたつては、説明書記載の作用効果を結果するような構成にその要旨を求めるべきことが一つの要請であるには相違ないけれども、本件実用新案においては、原告の指摘する閉鎖時に階段口を広くしてそのまま利用するという説明書記載の作用効果は、けつして原告主張のごとく「開き扉1を内(または外)に偏つた斜め位置で閉止するようにし」なければもたらされないものではなく、イ号物件における位置に閉止するようにしても、同様に―むしろよりよく―もたらされるのである。説明書における原告指摘の作用効果に関する記載には、原告主張のごとく「……開き扉1を階段から遠ざかるように『斜位置で』閉止させるようにすることによつて……」と記載されており、また図面にも右の斜め位置で閉止するものが示されているけれども、右記載には被告のいうとおり「例えば図示のように」と冠せられているのであつて、この字句と右認定の事実とからすれば、説明書の右記載および図面における開き扉1の斜め位置での閉止に関する部分は、単に実施の一態様を示したものとみるのが相当であつて、これに「登録請求の範囲」における「開放口Aの側方部分を開閉するように」を限定する趣旨を認むべくもないことは明らかである。原告の右主張も理由がない。

2 その(5)の主張について

「登録請求の範囲」における「偏倚した位置に」がこれに続く「捲込扉3を設けて」にかかることはきわめて明らかであり、説明書のその他の記載の趣旨もそうであつて、その「……開き扉1を……斜位置で閉止させるようにする……」の記載が一実施例にすぎないことはさきにみたとおりりである。

3 その(6)の主張について

本件実用新案において捲込扉3を開放口Aの側縁から外方へ偏倚した位置に設けた場合には、開き扉1を原告のいう斜め位置で、すなわち開き扉1の自由端の端縁と建物との間に適当な間隙をもたせて、閉止するようにしなければ、潜り戸4がその用をなさないことはたやすく理解できるが、仮に本件実用新案において、右の捲込扉3の外方偏倚の場合に、開き扉1の閉止位置が原告のいう斜め位置に限定されるものとなすべきであるとしても、そのことからただちに、本件実用新案においては捲込扉3の内方偏倚の場合にも開き扉1の閉止位置が同様に斜め位置に限定されるものとしなければ、本件実用新案が構造を異にする二つの型を含むことになるとする原告の主張はとうてい首肯できない。すなわち右仮定のもとにおいては、本件実用新案は、捲込扉3の外方偏倚の場合には開き扉1は斜き位置に閉止し、その内方偏倚の場合には開き扉1は開放口Aの側方部分を―限定なく―開閉するようにした(枢着した)という一つの型についてのものとみるのが相当である。

したがつてその主張のような論拠によつて、本件実用新案における開き扉1の閉止位置の限定をいう原告の主張も採用できない。

(三) 本件実用新案の出願手続の経過において、願書に最初に添附された説明書の「登録請求の範囲」の記載には、前記の当事者間に争いのない記載(請求原因二参照)のうち「枢軸5によつて枢着し」のつぎの「前記開放口Aの側縁から内方(又は外方)へ偏倚した位置に捲込扉3を設けて其の」の字句はなかつたのを、後に訂正されて右の字句が挿入されたものであり、なおこれと同時に最初の説明書の実用新案の構成についての説明の記載も同様に訂正されたものであることが認められるけれども、他方また右訂正にあたつて、「実用新案の性質、作用及効果の要領」の記載における「……例えば図示のように建物の階段口即ち上り階段aと下り階段bとの間の廻り通路を広く取り度い場合に開き扉1を階段から遠ざかるように斜位置で閉止させるようにすることによつて捲込扉3を階段から遠ざかつた位置で閉鎖するようにすることができ」の字句は、最初の説明書にすでに記載されていたのをそのまま引きついだのにすぎず、また図面の訂正もなされなかつた事実が認められるのであつて、これらの点からすれば右の訂正がその趣旨としたのは、単に捲込扉3の設置位置を明確にして「開放口Aの側縁から内方(又は外方)へ偏倚した位置」とするにあつたとみられるのであつて、右訂正によつて本件実用新案において原告主張のごとく「開き扉1を斜め位置に閉止する」ものである趣旨が明らかにされたものとみるべき余地はまつたくない。<中略>

三 つぎに本件実用新案とイ号物件とを対比するに、両者は(本件実用新案について本文に、イ号物件について括弧内に記載する。)、開放口Aの側縁に沿う軸線を有する枢軸5によつて(階段口Aの両側の柱Bの一隅に沿うて竪軸Cにより)開き扉1(袖扉D)を枢着し、この扉に潜り戸4(潜戸G)を設けるとともに、自由端の端縁に沿い(外側に内側に向かい)縦通案内溝2(案内レールE)を設け、前記開き扉1(袖扉D)の閉鎖位置における縦通案内溝2(案内レールE)によつて捲込扉3(シャッターF)の側縁を案内させるようにした構造においてすべて共通しており、ただ前者においては、開き扉1は「開放口Aの側方部分を開閉するように」枢着したものであるのに対し、後者においては、袖扉Dは「階段口Aの両側の柱Bの前面に沿う開放位置からこの面と直角をなす閉鎖位置まで擺動し得るように」枢着したものであるが、前者において開き扉1は右のように開放口Aの「側方部分」を開閉するように枢着されているのであつて、その開閉する個所についてそれ以上特に具体的に限定されてはいないのであるから、本件実用新案は、開き扉1の閉鎖位置において、イ号物件の袖扉Dの閉鎖位置に閉鎖するものも当然その技術的範囲に含むことになり、したがつて結局イ号物件は本件実用新案の権利範囲に属するものというべきである。

(なお仮に本件実用新案において開き扉1の閉止位置が原告主張のごとく限定されるものであるとしても、本件実用新案とイ号物件とは開き扉1(袖扉D)の開閉個所の相違によつて、閉鎖時に階段通路を拡げるという作用効果のうえでそれほどの差異があるものとは認められないから、右の相違は設計上の微差というべきであつて、イ号物件が本件実用新案の権利範囲に属することに変りはない。)

四 以上によつて明らかなように審決の違法を主張してその取消しを求める原告の請求は理由がないからこれを棄却す……る。(古原勇雄 杉山克彦 武居二郎)

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